麦穂7月号巻頭言 イエスの聖心像 主任司祭 細井保路
2023/7/3
イエスの聖心像 細井保路(ほそいやすみち) 自分の国を離れて、日本で暮らしている人はたくさんいます。そしてそれぞれの国や地域で大切にされてきたマリア様の御像などがあって、懐かしそうにそのことを話してくださる方もいます。教会を訪ねたときに、自分の国を思い出す懐かしい御像に出会えたらきっと嬉しいだろうなと思います。でも、それを本当に実現しようとしたら、教会に世界中の様々な御像が集まって、ディスニーランドの「イッツ・ア・スモールワールド」のようになってしまいます。だから、それはできないけれども、教会に来たら何かちょっと懐かしい気持ちになれるようなことはないだろうかと考えていました。 以前から、イエスさまの聖心の御絵を手に入れたいという要望を、外国籍の方たちから何度も受けたことがあり、その時に、昔読んだヘミングウェイの「老人と海」の冒頭あたりの文章を思い出していました。老人の住む粗末な小屋の描写の部分です。その貧しい暮らしは、今風に言うとミニマリストのお手本のようです。そして壁には古ぼけた「聖心」の御絵と、キューバで大切にされている「コブレの聖母」の御絵が飾ってあるのです。私が40年前に着任した静岡の清水教会は、教会を建てた神父様の故郷にある「ブローニュの聖母」に捧げられていました。そしてコブレのマリア様と同じようなエピソードがありました。 イエスの聖心の信心は17世紀に始まったものですが、世界中に広まって、いわば万国共通の「懐かしい」御像なのだと思います。そこで、聖心の御像が聖堂の入口にあったらいいなあと思い始めました。すると聖心の月ももうすぐ終わる6月28日に端正な木彫りのイエス像が届けられました。ふとした雑談がきっかけで、ジル・カロン神父様の作成した聖心の御像をいただくことになったのです。カロン神父様には直接お会いしたことはないのですが、ケベック外国宣教会の神父様で、日本にいらっしゃる間はずっと絵画や彫刻を制作していました。その作品は、横浜教区では藤が丘教会の十字架の道行きの壁画をはじめ、弘前教会や洗足教会のステンドグラス、仙台のカテドラルのキリスト像などあちこちに残されています。 この聖心の御像は、私にとっては、故郷を思い出すものではありませんが、一人の宣教師の願いを思いめぐらす大切な御像になりました。